教室の概要

昭和3年創設
「急がずに休まずに」の理念のもと
精神医学の発展に貢献しています。
北海道大学医学研究院 精神医学教室(旧・精神病学講座)は、1924年(大正13年)に勅令により設立が認可され、1928年(昭和3年)に初代教授・内村祐之のもとで本格的に講座として発足しました。我が国の精神医学の黎明期から現在に至るまで、教育・研究・診療の各分野において中核的な役割を担ってきた、歴史と実績のある教室です。
これまでに、大熊泰治、石橋俊実、諏訪望、山下格、小山司、久住一郎の各教授を経て、2025年4月より加藤隆弘が第8代教授として着任しました。これまでに本教室で研鑽を積んだ精神科医は400名を超え、北海道をはじめ、全国および世界各地で精神医学の臨床・教育・研究の発展に貢献しています。
創設当初は、脳組織病理学、マラリア療法、気脳写などを用いた臨床研究が行われ、1930年代には日本の精神医学を先導する存在として注目されていました。戦後は、クロルプロマジンやレセルピンをはじめとする向精神薬の早期導入、精神疾患の病態生理研究、脳波や脳血管造影などの先進技術の導入が推進されました。特に、対人恐怖やストレスによる神経化学的変化の研究、リチウムの作用機序の解明などが高く評価されています。
臨床面では、大学病院として全国に先駆けて精神科作業療法(昭和61年)、精神科デイケア(昭和59年)、訪問看護(平成期)を導入し、社会精神医学的な実践にも早くから取り組んできました。さらに、高齢化社会への対応として、平成22年には「もの忘れ検査入院」を開始し、平成18年にはうつ病患者を対象とした復職支援プログラムを導入するなど、時代のニーズに即した先進的な医療を提供しています。認知機能障害に対しては、独自に開発した認知機能検査バッテリーを用い、認知リハビリテーションもいち早く導入しました。
研究体制は、神経化学・精神薬理、臨床精神病理、神経生理の3つのグループを基軸に、多角的かつ国際的な研究を展開しています。1979年(昭和54年)以降は、WHOの生物学的精神医学研究協力施設に指定されており、その成果は国際的にも高く評価されています。2004年(平成16年)には、日本精神神経学会第100回記念大会を当教室が主催し、国内における学術的な地位を確立しました。
近年の新たな展開として、平成26年4月には札幌市の寄附により、全国でも数少ない大学における児童思春期精神医学講座が開設されました。平成31年4月には北海道大学病院児童思春期精神医学研究部門へと改編され、さらに令和6年4月には札幌市からの受託事業として「北海道大学病院子どものこころと発達センター」が発足し、児童思春期領域においても高度専門医療・研究・地域連携を担う体制が整備されています。
また、令和4年4月1日には「北海道大学病院附属司法精神医療センター」が、北海道で初となる医療観察法指定入院医療機関として開設されました。本センターでは、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った方に対し、精神科医を中心とする多職種による継続的な医療と支援を提供しています。病状の改善、社会復帰、再発防止を目指す重要な社会的使命を担っています。
さらに、第8代教授・加藤隆弘の着任後には、ひきこもりや精神療法、精神免疫学に関する臨床研究グループが新たに加わり、精神医学の研究および実践領域は一層多様化・深化しています。
本教室の臨床学風は、生物学的精神医学を基盤としつつ、力動的精神医学や社会精神医学の視点も取り入れ、患者一人ひとりへの全人的理解を重視している点に特徴があります。教育においては、「急がずに休まずに」の精神を大切にしながら、医学生・研修医・大学院生の育成に尽力しています。今後も本教室は、精神医学の進歩と社会への貢献に向けて、誠実かつ着実に歩みを進めてまいります。
歴代教授
- 初代 内村 祐之 教授
- 1928年~1936年
- 2代 大熊 泰治 教授
- 1936年~1938年
- 3代 石橋 俊実 教授
- 1939年~1948年
- 4代 諏訪 望 教授
- 1949年~1976年
- 5代 山下 格 教授
- 1976年~1993年
- 6代 小山 司 教授
- 1993年~2011年
- 7代 久住 一郎 教授
- 2012年~2024年
- 8代 加藤 隆弘 教授
- 2025年~現在