統合失調症グループ
当グループは、統合失調症の研究と臨床を主に行うグループである。
そのルーツは、第4代諏訪望教授の時代であった1954年に、日本で初めて、統合失調症の治療薬である抗精神病薬(クロルプロマジンとレセルピン)の臨床治験を行ったことに遡る。
この治験は、日本における統合失調症の薬物治療の幕開けを告げると同時に、教室の伝統となる精神薬理学的研究の源にもなった。第5代山下格教授の時代には、分子生物学的手法が導入され抗精神病薬の受容体結合能を検討する実験が行われたほか、覚醒剤の投与により統合失調症のモデル動物を作成しての実験が盛んに行われた。この研究は第6代小山司教授時代にも継続され、覚醒剤モデルの動物に抗精神病薬を投与し、脳内透析法により脳内のモノアミン物質の濃度変化を観察する研究が盛んに行われた。
またこの時期から使用頻度が高まった第二世代抗精神病薬については代謝性の副作用にいち早く着目し、血糖上昇と体重増加の機序に関する分子生物学的な研究が開始された。
第7代久住一郎教授の時代には、全国的な多施設共同研究となり、抗精神病薬の投与による体重増加と糖尿病発症リスクを前向きに観察する臨床研究が実施された。また統合失調症の患者さんのリカバリーの鍵を握るとされる認知機能障害に関する研究が全国に先駆けて開始され、北大式の認知機能バッテリー検査を用いた認知機能障害の評価と、事象関連電位、MR Iによる脳画像研究を組み合わせた臨床研究が展開された。
認知機能障害の評価は臨床にも組み入れられ、作業療法士さんの協力のもとで認知機能障害を改善するための認知リハビリテーション(N E A R)を全国でも最も早い時期から導入し、90例を超える患者さんに実施してきた。
また臨床においては、統合失調症の発症が疑われる最初期の段階において、時間をかけた診断面接と、事象関連電位、M R I、認知機能検査、眼球運動検査を組み合わせた生物学的評価により、現在の精神科医療の水準で考えられる最高レベルの診断を提供する検査入院を実施している。
急性期の薬物療法については、統合失調症薬物治療ガイドライン、初発統合失調症薬物治療アルゴリズムの作成に貢献し、ガイドラインの社会実装のための活動であるE G UI D Eにおいても北海道・東北地方の中核施設として多くの若手精神科医にガイドラインに沿った治療を指導してきた。
治療抵抗性統合失調症の治療薬であるクロザピンについても、2002年の治験参加から現在に至るまで90名を超える患者さんに対する治療実績を持ち、関連病院におけるクロザピン導入のサポートも行っている。
このように北大精神科統合失調症グループでは、基礎から臨床まで幅広いツールを取り入れた研究と最新の治療技法を貪欲に取り入れた臨床を実践してきた。発症が疑われる時期の検査入院から急性期における薬物治療、維持期における認知機能改善まで、統合失調症の全ての病期において、できる限りの治療を提供し、患者さんのリカバリーに貢献していきたいと考えている。
文責:統合失調症グループチーフ
橋本 直樹