臨床精神病理グループ

臨床精神病理グループは、臨床に首座を置きながら幅広い精神疾患の診療を通じて、臨床・研究・教育の発展に貢献することを目標としている。近年の国際的な診断基準を参照すると、あたかも独立した精神疾患が個別に存在しているかのような印象を受けるが、実際にはうつ病と不安症が分かち難く同居している症例もいれば、器質性精神疾患の症例にヒステリーの心性を見出すこともある。このような観点から、当グループでは、特定の疾患のみを対象とはせず、如何なる精神疾患でも診療していく心づもりで、日々の診察に臨んでいる。主に、当グループが関心を持ってきたテーマとしては、社交不安症の病理と治療、神経性やせ症をはじめとした摂食症全般に対する病態の理解と治療、パーソナリティ研究を通じた自殺行動の理解と自殺予防の取り組み、うつ病や双極症に対する認知行動療法、統合失調症の病識、等である。このような疾患横断的な取り組みを実践してきたことが、北海道大学保健センターおよび北海道大学附属司法精神医療センターへの直接的な貢献として結実している。

一方、本院における当グループの際立った特徴として、摂食症の診療を挙げることができる。中でも神経性やせ症は、極端な低体重から死に至る可能性がある病であり、心身両面に対する手厚い医療が必要となることから、総合病院の精神科が入院および外来診療を担当する場合が多い。しかし、北海道では総合病院の精神科は数が限られており、当科が担う役割は極めて大きい。当グループは専門的に摂食症の診療にあたっており、外来および入院において常時、新患を受け入れている。時には、難治性/遷延性の摂食症の治療に取り組み、また複雑化した摂食症の治療にも最後の砦の心づもりで取り組んでいるところである。これらの臨床実践は、当グループの医師のみで遂行することはできない。看護師、精神保健福祉士、心理士、作業療法士、薬剤師、栄養士などの協力を得て、多職種チーム医療を実践している。このような実践を通して、難治性/遷延性の摂食症の症例であっても回復に至る症例がいることを経験している。

さらに、このような臨床実践を土台に、毎年専攻医の教育に取り組んでおり、有能な臨床医を北海道全域に輩出している。また、このような臨床に対する姿勢は臨床研究の土台にもなっており、多くの学会発表や論文発表などを行い、学術的な貢献も行なっている。当グループでは、精神科臨床に不可欠な精神病理という視点を大切にしながら、日々の臨床実践を通して、広く国内外の医療に貢献していきたいと考えている。

文責:臨床精神病理グループチーフ
 三井 信幸