司法精神医学グループ
司法精神医学グループは、北大精神医学教室の中で最も新しいグループであり、司法精神医療センター(医療観察法指定入院医療機関)の開設に先駆けて、久住一郎前教授のご許可を得て令和3年6月に立ち上げられた。立ち上げメンバーは司法精神医療センターでの勤務が決まっていた賀古と髙信のほか、過去に国立病院機構花巻病院の医療観察法病棟で勤務歴のある三井も加わり、3名でスタートした。その後、司法精神医療センター医員の直江も加わり、令和7年度からは直江と交代で医員の木村が加わった。
北海道初の医療観察法病棟を立ち上げて軌道に乗せるという使命があったため、令和4年の司法精神医療センター開院後は臨床に注力する日々が続いたが、医療観察法病棟を大学病院が運営するのは全国初ということもあり、研究や人材育成面での期待も大きく、令和5年度からは厚生労働科学研究費補助金による障害者政策総合研究事業の分担班を継続的に担うこととなった。
臨床の現場は医療観察法病棟という特殊なフィールドであり、大多数を統合失調症が占める触法精神障害者が対象となる。さらに7割程度が治療抵抗性統合失調症であり、約半数が神経発達症を有しているという特徴もある。クロザピン治療や多職種チームによる心理社会的療法、地域連携などが臨床課題の中心ではあるが、重い精神障害に罹患したことに加え、重大な他害行為を起こしてしまったといういわば「二重のハンディキャップ」を背負った患者の社会復帰のために徹底的にリカバリーを追及していくということに集約されるものと思われる。
研究テーマは臨床課題と重なるものが多いが、これまで扱ってきたものとしては、クロザピン治療、発達特性への介入、心理教育、医療者の教育システム、精神鑑定などである。大学病院が担う医療観察法病棟として、研究面でもこの領域のトップランナーとなれるよう取り組んでいきたいと考えている。
また、司法精神医学グループの特色として、司法精神医療センターでの臨床と研究の他に、視野を広く持って社会との接点を意識していることが挙げられる。精神鑑定を積極的に引き受け、学会認定精神鑑定医資格を取得し、令和7年に北大病院は精神鑑定医養成指定研修施設(全国7施設目)に認定されている。令和5年には法曹三者と精神科医が参集して精神鑑定事例について検討する北海道精神鑑定研究会を立ち上げ、定期的に開催している。クロザピンの処方促進についての事業化を北海道に働きかけてきた成果として、令和6年度から難治性精神疾患地域移行促進事業が開始されて北大病院に委託されることとなった。令和7年の拘禁刑開始を見据えて札幌刑務所で開始された精神障害受刑者処遇・社会復帰モデル事業にも協力し、令和6年には協定を締結した。加害者臨床を担うにあたり、被害者の視点を忘れるべきではないと考えており、北海道犯罪被害者等援助センターの活動にも関わっている。司法とは離れるが、DPAT(災害支援精神医療チーム)活動にも積極的に参画している。
司法精神医学は社会精神医学であり、地域精神医療や地域精神保健福祉との連携や、医療以外の領域との接点も多く、社会の視点を持ち、社会への関与を常に志向していきたいと考えている。
文責:司法精神医学グループチーフ
賀古 勇輝