平成26年業績 学位

統合失調症患者における病識と関連する要因についての研究

賀古 勇輝

統合失調症患者において,病識の欠如はしばしば認められる所見であり,治療上最も大きな障害の一つである。病識と関連する要因については,徐々に研究報告が積み重ねられてきているが,多次元で構成される病識とさまざまな臨床指標との関連について,明らかにされていない部分も多く残されている。

本研究では,統合失調症患者の病識とさまざまな要因との関連を包括的に調査した。当科で入院治療を行った患者105名を対象として,退院時にさまざまな評価を行い,さらに92名については退院1年後にも同様の評価を行うことで,横断的調査と縦断的調査の両方を実施した。病識を最も包括的に評価できる評価尺度であるthe Scale to Assess Unawareness of Mental Disorder(SUMD)を用い,他の因子として精神症状や服薬心理,アドヒアランス,全般的機能,社会機能,治療転帰,認知機能障害などを評価して,相関を調査した。特に主観的体験に着目し,主観的欠陥,主観的QOL,主観的ウェルビーイング,主観的抑うつを評価して病識との関連を調査した。病識と主観的体験との関連についての縦断的調査では,初回エピソードの患者29名のみに限定して解析した。

病識と他の因子との関連については,病識を高める方向に働く因子として,罹病期間や教育年数の長さ,不安・抑うつ,社会機能の高さなどが明らかとなり,病識を低下させる方向に働く因子として,陽性症状や解体した思考・敵意・興奮に関する精神症状,認知機能障害(注意障害や実行機能障害)が明らかとなった。これらは先行研究の結果と概ね一致していたが,SUMDを用いたことで,より詳細にその関連を明らかにすることができた。

病識と主観的体験との関連については,現在の精神症状の自覚は,横断面的に主観的欠陥や主観的抑うつをはじめとした主観的な苦痛の強さと関連し,現在までの主観的体験の変化との有意な関連はなかった。一方,精神障害の自覚や服薬の必要性の自覚,精神障害による社会的結果の自覚などの全般的病識は,主観的QOLや主観的ウェルビーイングの現在までの変化,つまり主観的苦痛が改善されたことと関連していた。罹病期間が比較的短い患者では,その時点で何らかの主観的苦痛を感じていることが,精神症状の自覚につながり,主観的苦痛が改善された体験を通じて精神障害の存在やその社会的結果を自覚したり,治療の必要性を自覚するなど,全般的な病識が形成される可能性が示唆された。